この対話は、売上に悩むセラーと、長くその現場を見て数多くの店舗を支援してきたコンサルタントによるやり取りをもとに再構成したものです。
――最近ずっと気になっていることがあって。広告はちゃんと回しているのに、カートに入れてもらえてはいるのに、注文数が全然伸びないんです。ACOSだけがどんどん上がっていって、正直、いっそ広告を止めようかと思い始めています。
それ、今すぐ止めないでください。気持ちはすごくよく分かるんですが、そこで止めると本当にまずい。
――でも、お金だけ出ていって結果が見えないのは……。
一度聞かせてください。プライムデーの2週間前にAmazonで気になるものを見つけたとして、その場で即決して買いますか?
――……あ。たぶん、カートに入れておいて、セール当日まで待ちますよね。どうせ安くなるだろうと思って。
そうです。今まさに、買ってくれる側がそれをやっているんです。欲しくないわけじゃない。ただ、セール当日の値下がりを待っているだけ。だから注文数が動かないのは、広告が弱いからじゃなくて、お客さんが意図的に買うのを保留している状態なんです。
――じゃあ、このACOSの悪化も……。
コンバージョンがまだ動かない時期に「注文を取る」目標のまま広告を回し続けているから、です。消費者の行動と、広告の目的がずれている。それがACOS悪化の正体です。
――でも実際に、カート追加数と注文数ってそんなに動きが違うんですか?
データで見ると、かなりはっきり出ます。複数のセラーさんのセール前後の動きを見ると、こういう傾向が出ています。
注文数が横ばいの時期も、カート追加数はじわじわ増えている。そしてセール当週に、その分が一気に注文に転換されます。
――カート追加数が「先に動く」んですね。
そうです。だからこの時期にカート追加が増えているのに注文が増えないのは、「広告が効いていない」サインじゃなくて、「仕込みが順調に進んでいる」サインなんです。読み方が逆になりやすいんですよね。
――逆か……。たしかに数字だけ見てるとパニックになります。
そのパニックで広告を止めてしまうと、カートに入れてもらえていた自社商品の存在を、セール当日に競合に奪われることになります。お客さんのカートの中で、他の商品に入れ替えられてしまう。
――それは怖い。
だからこの時期、広告を止めるのではなく目的を切り替えることが重要です。「注文を取る」から「カートに入れてもらう」「このブランドを覚えてもらう」へ。消費者が待っているなら、こちらもその待ち方に合わせた戦い方をする、ということです。
――具体的に、どんな広告に切り替えればいいんでしょう?
ブランド登録をしている方向けの話になりますが、大きく2つです。
まず、スポンサーブランド広告のvCPMモード。通常のクリック課金(CPC)とは違って、インプレッション、つまり表示された回数で課金される形式です。クリックや注文を直接取りにいくのではなく、カテゴリーに興味を持ち始めたお客さんに、とにかく自分のブランドを目に入れておく。なんか見たことあるという記憶を積み上げていくイメージです。

――クリックしてもらえなくてもいい、ということですか?
この時期は、そうです。セール当日の消費者って、意外と「論理的に比較して選ぶ」よりも、「なんとなく見覚えのあるブランドをカートから選ぶ」という感覚的な判断をしやすい。だから、何度も目に入っていたかどうかが、当日の転換率に直接響いてくるんです。
――なるほど。記憶の競争をしている感じですね。
いい表現です。クリック課金型の広告が「今すぐ来てください」という呼びかけだとすると、vCPMは「いざというときに思い出してもらう」ための下地作りです。
――2つ目は?
スポンサーブランドの動画広告、同じくvCPMで運用します。静止画より動画の方が、お客さんが画面に滞在する時間が長くなるので、ブランドの印象が残りやすい。素材の準備が必要なのでハードルはありますが、記憶への定着という点では効果が高い。
――この2つ、いつから始めればいいですか?
セール開始の15日前、が一つの目安です。消費者が広告に接触てから実際に購入するまで、平均で2〜3回の接触が必要だと言われています。15日あれば、その接触回数を自然に積み上げられる。逆に、セール直前の2〜3日前から始めても、回数が足りなくて記憶に定着しません。
――15日前って、意外と早いですね。もっと直前にやるものだと思っていました。
直前にやったのに、思ったより効果が出なかったというのは、ほぼこれが原因です。認知広告は即効性がない分、時間を味方につけないといけない。早すぎるかなと思うくらいのタイミングで始めるのが、結果的には正解だったりします。
――タイミングは分かりました。でも実際、どのキーワードに絞って入札すればいいか、どうやって判断するんですか?
過去にプライムデーを経験している方であれば、検索クエリパフォーマンスで昨年のデータを引っ張ってみてください。セール前4週間のクリック数・カート追加数・購入率の推移を並べると、どのキーワードがどのタイミングで先に動き始めたか、パターンが見えてきます。そこで目星をつけたキーワードに優先的に入札するのが一つの判断軸になります。
――それはどこで確認できますか?
セラーセントラルのブランド分析から見られます。過去のデータが週単位で確認できるので、昨年のプライムデー前後の動きをそのまま引っ張れます。

――広告の話はよく分かりました。他にやっておくべきことってありますか?
広告と並行して、ストアページの整備を先に済ませておくことが重要です。まさか、ストアのデザイン変更、セール前日にやろうとしていませんか?
――……前日の夜にバナーを差し替えようと思っていました。
それは手遅れです。お客さんはセールの2週間前から、すでに商品を比べに来ています。ページが整っていない状態だと、その段階で他の商品に流れてしまう。Amazonの審査に時間がかかるリスクもあるので、2週間前には主力商品を目立つ場所に配置した特設ページを公開しておくのが基本です。
――2週間前か……。今からでも間に合いますかね。
今動けば間に合います。逆に言うと、「セールが始まったら頑張る」では、もう出遅れているということです。
――ストアを整えたら、あとは待つだけですか?
もう一つあります。購買意欲の高い見込み客に、先手を打つことです。具体的には、過去90日以内に自社商品をカートに入れたまま購入しなかった人や、商品ページを複数回訪問している人。こういった層はすでに興味を持っていて、あと一押しで動く可能性が高い。
――その人たちにどうアプローチするんですか?
限定クーポンやセール告知を事前に届けます。まったく新しいお客さんを獲得するより、転換コストがずっと低いので、少人数で運営しているセラーにとっては特に優先度が高い施策です。すでに興味を持っている人を取りこぼさない、という発想ですね。
――「待っている人」に先に声をかけておく、ということか。
そうです。セール当日に初めて気づいてもらうのではなく、「もうすぐセールがあるので、そのときにぜひ」と先に伝えておく。この一手があるかどうかで、セール当日の立ち上がりがかなり変わります。
――話を聞いていて、やるべきことは分かってきました。でも正直なところ、広告レポートを毎日確認して、ストアを整備して、見込み客へのアプローチも、全部1人でこなすのは……時間が足りなくなりそうで。
それは多くのセラーさんが抱えている問題です。そもそもセラーセントラルって、広告・在庫・売上のデータがそれぞれ別の画面に分散していて、まとめて把握するだけでも手間がかかりますよね。
――毎朝レポートをダウンロードして、Excelに貼り付けて……それだけで30分以上かかったりします。
その時間を、商品ページの改善や競合の価格調査に使えた方がいい。tool4sellerというツールを使っているんですが、広告・在庫・売上のデータを1つの画面で確認できるので、毎朝の確認作業がかなり短縮されました。
―――それは助かりますね。在庫の方はどうですか?
プライムデー中の在庫切れは本当に致命的で、せっかくカートに入れてもらっていた商品が買えない状態になると、その瞬間の売上機会がそのまま消えます。tool4sellerでは在庫の状況をまとめて把握できるので、気づかないうちに在庫が薄くなっていた、というケースが減ります。アラート条件を設定しておけば、閾値を下回ったタイミングで通知も届きます。
――複数のマーケットプレイスで出品している場合は?
出稿するマーケットプレイスを自分で選んで、それぞれ管理できます。さきほど話した検索クエリパフォーマンスも、このツールから確認できるので、広告・在庫・キーワードの動きをひとつの場所でまとめて見られます。
――ツールに頼ることで、判断が遅れたりしませんか?
むしろ逆で、データがひとつの画面に集まっていると、判断が早くなります。数字が見えていないから不安になって、感情で広告を止めたくなる。セール直前の焦りの多くは、状況が把握できていないことから来ているんです。ツールで確認の手間を減らすことで、冷静に動けるようになる、という感覚に近いです。
――正直、今日の話を聞くまで、セール直前に注文が増えないのはただの不安でしかなかったんですが、少し気が楽になりました。
そう言ってもらえると。ただ、「分かった」と「動いた」は別物なので。15日前というのは、今日からカウントするともうほぼそこです。まず一つだけ、今週中にできることを決めてみてください。
――広告の目標を切り替えること、ですね。
それだけでいいです。最初の一手が変われば、当日の見え方が変わります。
構成:大槻たまき


